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おとやろぐ

イタリア製・ソ連製西部劇研究家見習い

「ナスィーロル・モスク」なんて、ない。

明けましておめでとうございます。2016年初の更新は実家からお送りします。iPadを使って記事を書いているんですが、はてなブログには専用のエディタ、投稿アプリなんてあるんですね。案外便利。


それはそれとして。
 
去年あたりから、いわゆるバイラル・ブログが旅行関連のテーマでもぽこぽこと登場している印象があります。ああいう、碌に自分が行ったわけでもない場所について、ネットで調べたことを適当に書いている(ことが多い)ようなのはぼくは大嫌いなので、基本的に点が辛くなるのですが。
 
そこで、イランのシーラーズにある、別名ピンク・モスクとも呼ばれるあるモスクがしばしば紹介されています。例えば以下のような記事です。
 
 
この中で、マスジェデ・ナスィーロル・モスクとして紹介されているモスクがあります。先日ぼくも訪れた、ステンドグラスの光がペルシア絨毯に映えてとても美しいモスクなのですが、「マスジェデ・ナスィーロル・モスク」などという名前ではありません。
 
マスジェデ・ナスィーロル・モルク シーラーズ
 
ペルシア語が少し分かる方ならすぐに分かることなのですが、ペルシア語ではモスクのことを「マスジェド」と言います。マスジェデ・ナスィーロル・モスクでは「マスジェデ」という形になっていますが、これはペルシア語では被修飾語の語尾に-eが付くためであり、「マスジェデ・ナスィーロル」でナスィーロルのマスジェド、つまりナスィーロルのモスクという意味になります。
 
マスジェデ・ナスィーロル・モスクでは、ナスィーロル・モスク・モスクになってしまい、これじゃあ荒川川とか、富士山山と言っているようなものです。じゃあ、ナスィーロル・モスクにすれば正しいのかというと、そうではないのです。もう一つ、そもそも根本的な間違いがあります。
 
 
上のリンクは当該モスクの英語版Wikipediaのページなのですが、タイトルに注目してください。Nasir ol Molk Mosqueとなっています。そう、このモスクの名前はナスィーロルではなく、ナスィーロル・モルクなのです。もともとこのモスクはガージャール朝期にナスィーロル・モルク氏の寄進によって建てられたもの。そして、Nasir ol Molkというスペースの入り方からもわかるように、ナスィールはアラビア語のアンサール(援助)の複数形、モルクは「王国」という意味のアラビア語であり、alないしolはモルクに前置される冠詞、英語でいうとtheに当たることばです。つまり全体で「王国の援助者」という意味の名字になるわけです。
 
つまり、ナスィーロル・モルクは「ナスィール・アル・モルク」がくっ付いた形として「ナスィーロル・モルク」になっているのであり、これを「ナスィーロル」だけで使うことはあり得ないわけです。少し違いますが、リチャード獅子心王 (Richard the Lionheart) を Richard the と呼ぶようなものだと言えば分かりやすいでしょうか?
 
結論としては、当該モスクはマスジェデ・ナスィーロル・モルクと呼ぶか、ナスィーロル・モルク・モスクと呼ぶのが妥当ということになります。おそらく、モルクとモスクが1文字違いで似ていること。ペルシア語のマスジェド(ないしマスジェデ)が日本語の「モスク」とは語形が異なるため、同じ意味の語だと認識できなかったこと、の2つのミスが複合して発生した誤記なのでしょう。初めに間違った方については、まぁ、そういうこともあるよね、という感じ。ただ、Googleで「ナスィーロル・モスク」を検索すると、ああいうゴミのようなスパム記事(言っちゃった)がごちゃごちゃと引っかかってくるわけです。お前ら、少しは自分で調べろよ、と。適当なこと書いてるんじゃねぇよ、と。新年初怒りをして、年頭のご挨拶に代えさせていただきます。