OtoyaLog

おとやさんが好きかって書くログ

せめて30代が入ってくれないと回らない

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物事を始めるのに遅すぎるということはない、とか、人生の中で今日が一番若い日だ、とか。それは確かにそうだと思う。人間いくつになっても新しいことを始めるのは素晴らしいと思う。個々人が自分の可能性を諦めずに年をとっても様々なことに挑戦してゆく姿は素晴らしいと思うし、見習いたいとも思う。

ただ、それはそれとして、どんな業界でも、特に修得に時間がかかる業界では、せめて30代くらいまでの人に始めてもらわないと、継承サイクルとして回っていかない、というところはあると思う。

以下の文章は伝統的な古武術なんかを念頭において書いているけれど、他の分野にも当てはまるとは思う。

たとえば、普通の才能の人が、そこそこ修得できるまで20年かかる分野があったとする。30歳で始めれば50歳くらいでそれなりの境地に達することができる。その後、後進を指導することになったとしても、一番弟子が順調に一人前になったときには70歳。まあ、割とギリギリである。これだって、一番弟子が途中で辞めてしまったり、自分が体調を崩して教えられなくなってしまったり、という問題が発生する可能性はいくらでもある。ただ、順調にいけば次世代継承はぎりぎりできる。

一方で、定年を迎え、時間に余裕が出来たから始めよう、みたいなケースもある。上にも書いたけれど、それは素晴らしいことだし、私の経験上、そういう人は熱心だ。若い人に負けないくらいの上達スピードの方も多い。ただ、そういった方が一人前になったときにはもう80歳だ。この人が、それから指導者として次の世代を育てられるかというと、やはりなかなか難しい。

そうなってくると、やはり業界としては30代くらいまでの人に、次世代への文化・技術継承の期待をかけたくなってくる。

一方で、いまの30代以下の人は忙しい人が多い。昔から忙しい人は多かったが、今の人は忙しい上に金がない上に生活でやらなきゃいけないことが増えている、気がする。統計は見ていない。そもそも昔より人間が減っている。

まあ、歌舞伎とか、落語とか、プロというものが存在する分野はいいと思う。一方で、基本的にそれで食っていくことが難しい伝統文化の分野については、これからの先行きは非常に厳しいんじゃないかと感じている。ただでさえ少ないパイを業界内で取り合っている感じもある。

これはもう、日本全体の構造的なもので、仕方がないのかな、とも感じるのだけれど、私が年をとって死ぬころ、金にならない何らかの伝統文化が一緒に死んでいくのだとしたら、それは少し寂しいことだな、とは感じる。