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『深夜特急』に出てくる広東語「ハムサン」編

沢木幸太郎の『深夜特急』「第二章 黄金宮殿」にこんな一節が出てきます。

ついに彼女は立ち上がり、ひとこと呟くとそのまま部屋を出て行ってしまった、ハンサム、と聞こえたが、そんな言葉でないことは、彼女の表情の硬さから明らかだった。
(中略)
そのことを香港で知り合った日本人に話すと、彼は笑いながら、それはハムサンと言われたのかもしれませんね、と教えてくれた。ハムサンは助平という意味の俗語だという。

沢木幸太郎(1994)『深夜特急 1 ―香港・マカオ―』新潮社 : 109-110

私が初めて深夜特急を読んだのは小学生だか中学生の頃だったので、この部分はそのまま素通りして忘れてしまっていました。

少し前に、日本映画専門チャンネルで本作のドラマ版、「劇的紀行 深夜特急'96~熱風アジア編」が再放送されました。*1このドラマの中にも似たシーンが出てくるのですが、主人公に「ハムサン」の意味を解説する役回りは、小説の日本人から馬(マー)という香港人の男に変えられています。

その時の台詞が「ハムサン」というより、「ハームサッ」のように聞こえたので、ちょっと辞書を引っ張り出して調べてみたところ、割とすぐに見つかりました。

 

鹹濕】haam4sap1[形]〔口〕〈関係〉エッチ(な).助平(な)(後略)

 

片仮名で書くとすると「ハームサップ」あるいは「ハームサッ」になるでしょうか。ハームは低く、サップは高く発音します。広東語は長母音と短母音の対立があるので、1音節目のハームはきちんと母音を伸ばして発音したほうがよいです。語末のプは破裂しない、いわゆる入声です。

鹹は「しょっぱい」を意味する語なのですが、辞書によると俗語として「助平な、エッチな」という意味もあるみたい。

濕のほうは、広東語の語彙としては「金品を与える」とか「やっつける」とか書いてあります。普通話と共通の意味としては「濡れている、湿っている」が挙げられています。鹹濕の中の濕の役割は分かるような分からないような。

関連語彙としては、「鹹濕伯父」エロおやじ、「鹹濕佬」エロおやじ、「鹹濕戲」ポルノ映画(ちなみに、これは「三級片」という言い方もありますが、これは香港当局の映画規制の分類が由来の言葉)、「鹹濕書」エロ本……

もういいか。とにかくこんな感じです。

今回はこんなところで。

*1:そういえばこのドラマ、デビュー間もない陳奕迅が何故か出演してるんですよね。