OtoyaLog

おとやさんが好きかって書くログ

涼山規範彝文を入力するブックマークレット

WindowsやアンドロイドにはIMEが存在するのですが、iOS環境には涼山規範彝文のIMEが(少なくとも日本から普通にアクセスできるところには)存在しないため、簡易的なブックマークレットを作成しました。

使い方はソースを見てもらえばと思いますが、ちょっとだけ解説します。音節ごとにスペースで区切って入力してください。例えば 「ꉠꃺꃶꍰꄖꇓꈓꐥ。」と入力したいとします。ちなみに意味は「私の兄は成都市に住んでいます。」です。

単語ごとに分かち書きする場合、「ngat vytvu chepdu lurkur jjo.」となると思いますが、このブックマークレットに入力する場合、「ngat vyt vu chep du lur kur jjo .」のように入力します。

注意点としては、約物の前にもスペースを入れてください。そうしないと挙動が壊れます。

基本的には規範彝文の拼音の通り変換されますが、少し特殊なものとしては、ꀕは「w」で出ます。また、「,」「.」はそれぞれ「,」「。」に変換されます。また、変換できない文字は入力したものがそのまま出てきます。

自由に使って頂いてOKですし、適宜使いやすいように改造していただいて全然構いませんが、自己責任でどうぞ。何か不具合があった場合、(もちろん勝手に直していただいていいんですが、)twitterとかでご連絡頂ければ直すかもしれません。

以下の呪文をコピペして登録すれば動くはずです。

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破裂音の三項対立問題

愚痴です。

私が今まで勉強したことのある中国語系の言語は普通話と広東語だけだったのですが、それに最近加わったのが台湾語です。

普通話も広東語も破裂音として存在するのは無声有気音と無声無気音だけでした。一方で、台湾語には無声有気音と無声無気音に加えて有声無気音が加わります。

ちなみに日本語には有声無気音と無声無気音が存在しています。図に表わすとこんな感じ。

この図、別にいらなかった説あるな。

ちなみに私は有声無声、有気無気の関係をいわゆるボイス・オンセット・タイム(息を出しはじめてから声帯が振動し始めるタイミング)で理解しているんですが、この理解だとヒンディー語とかに存在する有声有気音の出し方が分からないんですよね。まあ、今はそれはいいとして。

で、発音上の難しさとしては、普通話や広東語を話す時、無声無気音が勢い余って有声無気音になったとしても、不自然さはあっても一応通じる(ことが多い)のです。一方、台湾語の場合は無声無気音を調音すべきところで有声無気音になってしまうと違う音になってしまうので、その辺は普通話や広東語よりもシビアになります。

まあ、我々日本語母語話者は母語に有声無声の区別があるので、普通話しか話せない人に比べるとだいぶ楽だとは思うんですけれど。

もう一つのネックが表記問題。上の図でも分かるとおり、普通話や広東語では(両唇音で代表すると)pで無声有気音、bで無声無気音を表わしているのに対し、台湾語ではpで表わされるのが無声無気音、bで表わされるのが有声無気音と一つずつずれます。これが地味に難しい。気をつけないと、ぱっと見で無声無気音を無声有気音で読みそうになります。

以上愚痴でした。今回はこんなところで。

台拼か教会ローマ字か

台湾語のローマ字表記の話。結論から言うと、私は基本的に台拼を使って勉強するので、今後このブログに出てくる台湾語のローマ字表記も基本的に台拼のものになります。

以下蛇足。

台湾語のローマ字表記は何種類かあるのですが、こと日本で台湾語を勉強しようとした時に使用候補に上がるのが、タイトルにもある台拼こと「台灣閩南語羅馬字拼音」と教会ローマ字でしょう。

日本で出版されているほとんどの教材が教会ローマ字を採用しています。一方で、台拼は2000年代に台湾政府によって公式に定められたローマ字表記法であり、台湾での政府系の刊行物や台湾語試験などで採用されるなど、将来性を考えると台拼のほうに分がありそう。

また、教会ローマ字は、鼻母音を表すのに「aⁿ」のように右肩に小さなnを置いたり、[ɔ]の音を表すのに「o͘」という、oの右肩に点を打った記号を用いたりと、パソコンのキーボードで打つのが面倒という問題もあります。

ちなみに、上記の音は台拼で表すと、それぞれ「ann」「oo」となります。

主にこの二つの理由から台拼を採用することにしたわけです。ニューエクスプレスとかを読んでいると、読み替えが少し手間ではあるんですけれども。

今回はこんなところで。

台湾語の声調変化とたたかう

以前にも台湾語の声調について書きましたが、台湾語は個々の声調自体の難しさは普通話と広東語の中間といった印象です。これはあくまで個人的な感覚ですが。

むしろ、台湾語の声調システムの真骨頂はその声調変化にあると言えます。普通話でいうと、3声と3声が連続すると3声+3声から2声+3声になる、みたいなことなんですが、台湾語ではこれが全声調で発生します。

ネットで見かけた資料を参考にしつつ、『ニューエクスプレスプラス 台湾語』で説明されている声調変化を図にすると以下のようになります。

台湾語の声調変化

基本的には文末以外の声調はみんな変化する、くらいに考えておいたほうがいいようです。(とはいえ、句の区切りでリセットされることもあるし、多分その辺は話し方にもよるのかもしれません、知らんけど)

で、この声調変化システム相手に四苦八苦しながら学習しているんですが、今のところこんな感じでノートを作っています。

1行目が教会ローマ字、2行目が漢字。で、漢字の上に蛍光ペンで書かれているラインが声調変化後の実際のトーンです。最終的にはこれなしでスムーズに読めるようにならないといけないんですが、まあ、経過的な措置という感じです。

台湾語やっている方のなにかの参考になれば。

今回はこんなところで。

「キャラクターを描くのにその内臓まで描く」(「星の王子さま」より)

言語学習者界隈では各言語版の『星の王子さま』を収集するのが流行っている界隈もあるようで、私も少し前に広東語版の『星の王子さま』を手に入れました。毎日少しずつ書き写しながら読んでいるのですが、面白い表現にぶつかったのでご紹介します。

まずは該当箇所の日本語版。

それで僕は、おとなたちにもわかるように、ボアのなかが見える絵を描いてみた。おとなたちには、いつだって説明がいる。

サン=テグジュペリ、河野万里子訳(2006)『星の王子さま』新潮社(強調は筆者)

ところで、電子書籍で引用個所を明示したい場合、ページ数とかどうすればいいんでしょう。とにかく、第1章の中ほどの部分です。

同じ部分が広東語版では以下のようになっています。

噉我唯有將條蟒蛇肚入面嘅情況全部畫晒出嚟,等佢哋睇得明啲。佢哋真係要畫公仔畫出腸架。

安東尼·廸·聖艾舒比尼、蔡偉泉譯(2017)『小王子』藍出版

面白いのが、太字にした「要畫公仔畫出腸架」の部分。直訳すると「絵本のキャラクターを描くのに、その内臓まで描かないといけない」くらいになるでしょうか。

ちょっと調べて見たところ、この表現は「畫公仔唔使畫出腸」(キャラクターを描くのに内蔵まで描く必要はない)という慣用句が下敷きとなっている表現のようです。また、「畫公仔畫出腸」自体を慣用表現として紹介している例も見かけました。

要するに、「畫公仔唔使畫出腸」の方は「なんでもかんでも説明する必要はない」というような意味の慣用表現で、それが「要畫公仔畫出腸架」になると、「なんでもかんでも説明しないといけない」という意味になるようです。

この表現は普通話にはない広東語独自のもののようです。ちなみに普通話版の『星の王子さま』では該当箇所は以下のようになっています。

我画出了大蟒蛇内部的样子,以便大人们能看清楚。不管什么是,他们都需要一番解释。

安东尼·圣埃克苏贝里、戴蔚然译(2004)『小王子』文化艺术出版社

すっごい普通。

台湾語の教会ローマ字の声調表記への文句

台湾語、福建語、閩南語、いろいろと言い方はありますが、台湾で多く話されている中国語の方言のうち、いわゆる「国語」ではなくて客家語でもないやつです。

台湾語って書いて「国語」を指しているケースも(特に日本語界隈で)ままあるし、福建語とか閩南語は本来もう少し広い方言群を指す言葉だしでややこしい。

その台湾語にも、普通話の拼音(ピンイン)のような、ラテン文字を使用して発音を表記する方法がいくつかあります。その一つが台湾にキリスト教を布教するためにやってきた宣教師たちが定めたものを基にした「教会ローマ字」というものです。

今回はその教会ローマ字の声調表記に文句を言う回となります。非生産的です。

台湾語の声調

前提知識として、現在台湾語の声調は7種類あります。

表を書こうかとも思いましたが、面倒なので言葉で説明します。カッコ内はaを例とした場合の声調表記、最後の数字は国際表音字母(IPA)の声調表記です。IPAについては私の感覚的な数値なので厳密ではありません。

第1声 (a)……高く始まり平らに伸ばす。(55)

第2声 (á)……高く始まり急激に落ちる。(51)

第3声 (à)……低く始まり平らに伸ばす。(11)

第4声 (ap)……少し低めで始まり短く詰まる。(22)

第5声 (â)……中ほどの高さから緩やかに上げる。(35)

第7声 (ā)……中ほどの高さで平らに伸ばす。(33)

第8声 (a̍p)……少し高めで始まり短く詰まる。(44)

声調が7種類なのに第8声まであるのは、第2声と第6声の区別がなくなった、という歴史的な経緯によるようです。

文句

その1。第2声がáなの分かりづらくないですか? なぜ急激に低くなる声調の記号が右肩上がりなのか。まあ、第3声も方言によっては起点から低くなる声調みたいなので、仕方ない気もしつつ、じゃあ起点から高くなる第5声と逆でも良かったのでは感が拭い去れない……

その2。第1声と第7声で混乱する。なぜ高平の第1声に符号が付かず、中平の第7声に符号が付くのか。この辺、私が広東語をイェール式で習得したのも関係していて、あっちでは高平調は「ā」と表記されて中平調は無標の「a」になるんですよ。

その1についてはもう慣れてきたんでいいんですが、その2についてはいまだに油断すると混同しそうになります。まあ、広東語と台湾語は違う言語なので、区別して覚えろ、と言われればそれまでの話なんですが。

今回はこんなところで。

『深夜特急』に出てくる広東語「ハムサン」編

沢木幸太郎の『深夜特急』「第二章 黄金宮殿」にこんな一節が出てきます。

ついに彼女は立ち上がり、ひとこと呟くとそのまま部屋を出て行ってしまった、ハンサム、と聞こえたが、そんな言葉でないことは、彼女の表情の硬さから明らかだった。
(中略)
そのことを香港で知り合った日本人に話すと、彼は笑いながら、それはハムサンと言われたのかもしれませんね、と教えてくれた。ハムサンは助平という意味の俗語だという。

沢木幸太郎(1994)『深夜特急 1 ―香港・マカオ―』新潮社 : 109-110

私が初めて深夜特急を読んだのは小学生だか中学生の頃だったので、この部分はそのまま素通りして忘れてしまっていました。

少し前に、日本映画専門チャンネルで本作のドラマ版、「劇的紀行 深夜特急'96~熱風アジア編」が再放送されました。*1このドラマの中にも似たシーンが出てくるのですが、主人公に「ハムサン」の意味を解説する役回りは、小説の日本人から馬(マー)という香港人の男に変えられています。

その時の台詞が「ハムサン」というより、「ハームサッ」のように聞こえたので、ちょっと辞書を引っ張り出して調べてみたところ、割とすぐに見つかりました。

 

鹹濕】haam4sap1[形]〔口〕〈関係〉エッチ(な).助平(な)(後略)

 

片仮名で書くとすると「ハームサップ」あるいは「ハームサッ」になるでしょうか。ハームは低く、サップは高く発音します。広東語は長母音と短母音の対立があるので、1音節目のハームはきちんと母音を伸ばして発音したほうがよいです。語末のプは破裂しない、いわゆる入声です。

鹹は「しょっぱい」を意味する語なのですが、辞書によると俗語として「助平な、エッチな」という意味もあるみたい。

濕のほうは、広東語の語彙としては「金品を与える」とか「やっつける」とか書いてあります。普通話と共通の意味としては「濡れている、湿っている」が挙げられています。鹹濕の中の濕の役割は分かるような分からないような。

関連語彙としては、「鹹濕伯父」エロおやじ、「鹹濕佬」エロおやじ、「鹹濕戲」ポルノ映画(ちなみに、これは「三級片」という言い方もありますが、これは香港当局の映画規制の分類が由来の言葉)、「鹹濕書」エロ本……

もういいか。とにかくこんな感じです。

今回はこんなところで。

*1:そういえばこのドラマ、デビュー間もない陳奕迅が何故か出演してるんですよね。